Chapter 0: まず知っておきたい日本の政治の基本
2025年7月21日、月曜日の朝。一人の小学5年生が、朝食を食べながら父親に尋ねました。「お父さん、ニュースで『与党が過半数割れ』って言ってたけど、どういう意味?」
父親は少し考えてから答えました。「そうだな...まずは日本の政治の基本から説明しないとわからないかもね」。この会話から、家庭での小さな「政治授業」が始まりました。
「えっと、そもそも国会って何をするところなの?」
父親はテーブルに紙とペンを置きながら説明を始めました。「国会は『法律を作る場所』なんだ。例えば、君が学校に通えるのも、給食を食べられるのも、全部法律で決まっているんだよ」
この日、全国で同じような会話が交わされていました。選挙結果は、多くの人にとって「政治って何?」を考えるきっかけになったのです。
「もし一人がすべて決めたら...」——三権分立の知恵
父親は紙に大きな丸を3つ描きました。「ここで問題です。もし一人の人が、法律を作って、実行して、裁判も全部やったらどうなると思う?」
「うーん...その人が好き勝手にできちゃう!」小学5年生はすぐに答えました。
「その通り!だから日本では、国の仕事を3つに分けて、お互いにチェックし合うんだ。これを三権分立って言うんだよ」
実はこの仕組みは、18世紀のフランスの思想家モンテスキューが考えたものです。彼は「権力が集中すると必ず腐敗する」と警告しました。日本も戦後、この知恵を取り入れたのです。
三権分立の仕組み
立法(国会)
選挙で選ばれた議員が法律を作る。「こんなルールが必要だ」と話し合う場所。
行政(内閣)
総理大臣と大臣たちが法律を実行。実際に政策を動かす「実行部隊」。
司法(裁判所)
法律が守られているか判断。憲法に違反する法律は「ダメ!」と言える。
父親は紙に矢印を描き加えました。「この3つは、お互いにチェックし合っているんだ。例えば、国会は総理大臣を選ぶし、裁判所は国会が作った法律が憲法に違反していないかチェックできるんだよ」
「大事なことは2回確認」——二院制の知恵
「ここで、昨日のニュースの話に戻るよ」父親はペンを持ち直しました。「日本の国会は、衆議院と参議院という2つの『部屋』でできているんだ」
「なんで2つも必要なの?1つじゃダメなの?」
父親は少し考えてから、身近な例を出しました。「君が宿題をやったとき、お母さんがチェックするよね?それと同じだよ。大事な法律は、一度決めたあとでもう一度別の目で確認するんだ」
実際、歴史を振り返ると、一つの議院だけで拙速に決めて大失敗した例があります。ナチス・ドイツでは、ヒトラーが国会を一院制にして、危険な法律を次々と通しました。日本も、戦前は貫族院という「第二の目」がありましたが、実質的には機能していませんでした。
「だから戦後の日本は、しっかりとした二院制を作ったんだ。『急いで間違えるより、時間をかけても正しい答えを』って考え方だね」
衆議院と参議院の違い
参議院の特別な役割
「参議院は『良識の府』と呼ばれているんだ」父親は説明を続けました。「任期が6年と長く、解散もないから、目先の人気とりじゃなくて、じっくり考えられるんだよ」
政治の「チーム分け」——与党と野党
「さて、ここからが重要だよ」父親は新しい紙を出しました。「クラスで班を作るように、国会議員も同じ考えの人たちでグループを作るんだ。これを『政党』って言うんだよ」
そして、紙に大きな線を引いて二つに分けました。「この政党は、大きく分けると『与党』と『野党』に分かれるんだ」
与党
政権を担当している政党。内閣総理大臣を出し、国の運営をする。
例:自民党・公明党(2025年7月時点)
野党
政権に参加していない政党。与党の政策をチェックし、対案を出す。
例:立憲民主党、国民民主党など
「じゃあ、与党だけでいいんじゃない?」
父親は首を横に振りました。「それが大間違いなんだ。ちょっと車の例えで考えてみようか」
🚗 政治を車の運転に例えると...
- 与党 = 運転手(ハンドルを握って進む)
- 野党 = ナビゲーター(道を間違えないようチェック)
- 国民 = 目的地を決める人(選挙で方向を決める)
「運転手が『こっちの道が早い』と言っても、ナビゲーターが『いや、あっちの方が安全だよ』ってアドバイスできるよね?政治も同じ。与党が間違った方向に行かないように、野党がチェックするんだ」
実際、世界の歴史を見ると、野党が存在しない国では、政権の暴走が起きやすいことがわかっています。例えば、中国や北朝鮮では事実上一党独裁で、政策を批判する人がいません。
法律ができるまでの「障害物競走」
「じゃあ、法律はどうやってできるの?」小学5年生は興味深そうに聞きました。
父親は紙にフローチャートを描き始めました。「法案っていうのは、『こんな法律を作りたい』っていうアイデアのこと。でも、アイデアだけじゃ法律にならないんだ」
「例えば、『子どものお小遣いを2倍にしよう!』っていう法案があったとしよう。でも、お父さんたちの代表(議員)が集まって、ちゃんと話し合わないと決まらないんだ」
法案が法律になるまでの流れ
「なるほど!でも、与党が多数だったら、何でも決められちゃうんじゃない?」
「するどいところに気がついたね!」父親は感心したように言いました。「確かに、与党が衆議院と参議院の両方で過半数(半分以上)の議席を持っていれば、理論上はそうなる。でも、実際には与党の中でも意見が分かれることがあるし、世論を無視した法案は通しにくいんだ」
「そして、ここが重要なんだけど...」父親は声を落としました。「2025年の参院選で、与党は参議院で過半数を失ったんだ。つまり、今までのように『与党だけで決める』ことができなくなったんだよ」
小学5年生の目が大きくなりました。「えっ、それって大変なことなんじゃない?」
「その通り。だから大人たちが大騒ぎしているんだ。詳しくは、次の章で説明するよ」
「みんなが主役」——選挙の力
「最後に、一番大切なことを教えるね」父親はまた新しい紙を出しました。「君はまだ選挙に行けないけど、18歳になったら、誰でも投票できるんだ」
「選挙っていうのは、僕たちが『この人に政治を任せたい』って選ぶことなんだ。スポーツのキャプテンを選ぶみたいなものさ」
📊 選挙の種類
- 衆議院議員選挙:最長4年ごと(解散があれば早まる)
- 参議院議員選挙:3年ごとに半分ずつ改選
- 地方選挙:知事や市長、地方議員を選ぶ
選挙の意味
「今回の選挙で分かったことがあるんだ」父親は真剣な顔で言いました。「投票率が上がったことで、政治が変わった。特に若い人たちが投票に行ったことが、大きな影響を与えたんだ。つまり、一人一人の一票が、本当に国を変える力を持っているんだよ」
朝食が終わる頃には...
「そろそろ学校の時間だね」父親は時計を見ました。「今日の話、難しかった?」
「ううん、大丈夫!政治って、意外と面白いんだね」小学5年生は笑顔で答えました。
父親は描いた紙をまとめながら言いました。「今日話したことをまとめると...」
今日学んだこと
- ✅ 国の仕事は3つに分けてお互いにチェック(三権分立)
- ✅ 国会は2つの部屋でダブルチェック(二院制)
- ✅ 与党は運転手、野党はナビゲーター
- ✅ 法案は両院でOKが出て初めて法律に
- ✅ 選挙はみんなの声を届ける大切なチャンス
- ✅ そして今、与党が参議院で過半数を失った!
「じゃあ、学校で友達にも教えてあげてね」父親は紙を渡しました。
この日、全国の家庭で、こんな小さな「政治授業」が行われていました。2025年の参院選は、多くの人にとって、政治を身近に感じるきっかけになったのです。